「おい、17歳なのに缶チューハイを飲んでるんじゃねぇよ!通報すっぞ!」
(やべっ、見つかった!)
20XX年の日本では15歳以上のルールを守らない者は自警団に捕まるようになってしまった。しかも捕まった者が戻ってきたことはない。つまり世の中のルールを守らない者は即死…らしい。
今度は自分が捕まるかもしれない。そう思いながらも一度吸ってしまった甘い蜜はやめられない。
「ああ、通報してもいいよ?」
「へっ?やけに素直だな」
「その代わりお前が浮気してるのを通報してやるからな!」
「そ、それはやめっ!」
殴られそうになるが、間一髪のところで避けきった。
「今殴ろうとしたね?暴行罪だよね?自警団じゃなく警察行きかな?」
「くっ…しょうがねぇな、見逃してやるか」
なんとかスルー出来、飲みきった缶を処分し大量の烏龍茶を飲んで酔いを覚ました。
(こうやって他人の黒いところを見つけてスルーしてきたけどこれでいいのかな…)
そう思いながらも自分を守るためにはそうするしかない。この時代の日本ではこうするしか生きる術がないのだ。
(きゅうくつだよな…そりゃ酒に走りたくもなるよ)
ベンチに座ると、遠くで派手な爺さんが世に対する不満を大きな声で叫んでいた。しばらく眺めていると自警団が現れ連行されていった。爺さんの姿を見て暴言を吐く若者も一緒に連行された。
(また大人が減ったか…)
家に着くといるはずの母親がおらず、妹が泣いていた。横で弟は眠っていた。おそらく泣きつかれたのだろう。目にうっすらと涙が滲んでいた。
「ただいま。ママはどうしたの?」
泣いている妹がしがみついてきた。
「ママね…じてんしゃでむかえにきてくれたんだけど、『さんにんでのってるから』ってじけいだんにつれていかれたの」
車を修理に出していて10年近く使っていなかった子乗せ自転車を使ったらしい。子どもを留守にさせてもいけないからしょうがなく使ったのだろう。
「もう…ママかえってこないのかな…」
「う…」
うんとは言えなかった。
父親は仕事のストレスから酒を飲む量が増えて公園で寝込んでいるところを捕獲されてから帰ってこなくなった。
祖父は芸能人を冗談半部で貶し通報されていなくなり、祖母はショックでそれから急に老け込み亡くなった。亡くなる数日前に祖母は「生きにくい世の中になったわね」と漏らしていた。
この家に大人はもういない。家族と過ごした楽しかった日々は帰ってこない。
インターホンのチャイムが鳴った。
(こんな時間になんだろ)
ドアを開けると自警団がいた。
「あっ、わかってらっしゃいますよね」
「なにが?」
「きみ、17歳なのに飲酒したでしょ?」